クレーメルの「シャコンヌ」
ゆうべ台風が通過した翌朝の東京は一転、ピーカンの秋晴れ。
秋を感じるこの季節、一年のどの時期にもましてクラシック音楽がしっくりきます。
先日のフランソワとの「再会」が呼び水になって、いま青柳いづみこの「ピアニストが見たピアニスト」を読んでいるのですが、ヴァイオリンも大好き。一番好きなのはワディム・レーピンですが、バッハの「シャコンヌ」に関していえばギドン・クレーメル♪
の最終楽章を飾るこの「シャコンヌ」は、257小節にも及ぶ長大な曲で、これだけで独立して演奏されることも多い、ヴァイオリン作品の最高峰です。
久しぶりに見たクレーメル、すっかりいい感じにトシ取っちゃって、金沢の某古本屋のオヤジさんにそっくりに(笑)。でも、手が昔のままの美しさなのには驚きました。
YouTubeでもいろいろ聴き比べできますが、パールマンとかヴェンゲーロフのような、力強くて情熱炸裂!系な演奏が好みの方だと、クレーメルの演奏は線が細く聴こえるかもしれません。やまねこの感覚では、「情熱的で力強いバッハ」ってむしろ違和感あるのですが。
上記の人たちが圧力高めにロングトーンかけている箇所を、クレーメルはすーっ、とやや短めに切り上げたりしてる。ヴェンゲーロフが極太の万年筆(パールマンは毛筆)で力強く切り出した書体なら、クレーメルは研ぎ澄まされた中字のペン先から「とめ」「はらい」もしなやかにくり出されるペン字でしょうか。
何度聴いても、いつのまにか曲の中にらせん状に引き込まれていくような感覚を覚える演奏で、内に向かってひたすら突きつめていくような求道的なイメージのこの曲には、クレーメルにぴったり。
内容は~~第一線で活躍するヴァイオリニストが、商業主義的な演奏活動に疑問を感じていたところに親友の自殺が重なって、舞台を降りて地下鉄の通路でひたすらヴァイオリンを弾くようになって・・・というような~芸術至上主義的な感じの作品。いかにもかつてのBunkamuraル・シネマでかかりそーな、セリフの少ない映画だったけど、ラスト15分間のクレーメルはすばらしかった!もしかしたら、制作側はとにかくクレーメルの「シャコンヌ」が好きで好きで、この映画作ったのかもね。