「自然な建築」(隈研吾/岩波新書)

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「あるものが、それが存在する場所と幸福な関係を結んでいる時に、われわれは、そのものを自然であると感じる。自然とは関係性である。自然な建築とは、場所と幸福な関係を結んだ建築のことである。場所と建築との幸福な関係が、自然な建築を生む。」

2008年に出版された本です。
私のような隈研吾ビギナーでも、ここ数年の取り組みがなんとかつかめる内容・・・かな。
「なんとか」というのは、この本、構成にやや難があって、序章でいきなり核心に入るので前半読むのが重かったため。ただし、隈の主張自体はかなり明晰です。

序章では、20世紀は「コンクリートの時代」であったとして、コンクリートはその普遍性(場所を選ばない・自由な造型可能)ゆえに近代建築を生み出してきた一方で、利便性と形態の美しさのみを追及した建築によって、場所と素材の関係性を断ち切り、自然を画一化するものでもあったのだとコンクリートを批判。
隈のいう「自然な建築」とは、そうした建築へのアンチテーゼとして、石、木、竹、土、和紙といった素材をその場所に活かすことで、「場所に根を生やす」「場所と幸福な関係を結ぶ」方法の、現代における可能性を追求する建築だという。

・・・と書くと、自然素材にこだわった頑固一徹系のオヤジの姿が思い浮かぶのだけど、実践編ともいうべき各章でのエピソードを通した建築家の姿は、むしろ非常にバランス感覚に長けた大人だなあ~という印象。
そもそも自然素材は欠陥だらけである。経年劣化は人工素材に比べて早いし、もろいし、汚れやすい。消防法などの関連法規にふれる問題もある。イニシャルコストだけでなくランニングコストもかかる自然素材に対して不安を持つクライアントの反応は、むしろ当たり前。「まず欠陥を認め、欠陥に開き直らず、あきらめずに研究を続け、解決策を探す最大限の努力と謙虚さがなければ、自然素材は消えていくばかりである」と、ときには人工素材と組み合わせ(本書を読む限り、むしろそういう工法の方が多い)、クライアントの不安や法令上の問題を解決していくプロセスは説得力がある。まあ、こうした仕事上の折衝は建築に限った話じゃないけどね。
各章のプロジェクトには、シャープのCMで有名な「竹の家」や東京ミッドタウンサントリー美術館も出てくるのだけど、隈の主張が端的に表れているのは栃木の広重美術館のエピソード。あの極細の杉板のレイヤーが消防法をクリアできたのは、地元宇都宮大学に籍を置く無名の研究員による「杉の不燃化」の燃焼実験だったというくだりなんて、もうびっくりというかスリリングで面白かったです。

とはいえ、こうした「自然な建築」として挙げられた例が美術館とかリゾートハウスのような特殊な用途のものであることと、それ以上にこうした手法が、一日完成が遅れただけでも莫大な金利が発生する建築の現場という「現実」には、どれだけ取り入れられるのかという点に疑問がないわけではないけれど。
正直、やや理想論かな・・・と思えるところもあるものの、現代アートにおいても「関係性」というテーマを目にする昨今、隈が評価されているのもこうした時代の流れと無関係ではないのかな、という意味で興味深い本でした。