喜多流職分会 1月自主公演能

能「翁」
シテ  :高林呻二
三番叟 :野村萬斎
千歳  :高野和
笛    :槻宅聡
頭取  :鵜澤洋太郎
脇鼓  :古賀裕己
脇鼓  :田邊恭資
大鼓  :佃良勝
地頭  :粟谷能夫
主後見 :高林白牛口二

狂言「筑紫奥」
シテ  :野村万作
アド  : 石田幸雄
小アド :野村万之介

能「羽衣」
シテ  :内田安信
ワキ  :宝生欣哉
ワキ連 :則久英志
ワキ連 :梅村昌功
笛   :中谷明
小鼓  :亀井俊一
大鼓  :柿原崇志
太鼓  :助川治
地頭  :友枝 昭世
主後見 :佐々木宗生

仕舞「草紙洗」
友枝 昭世

能「船弁慶
シテ  :塩津哲生
子方  :金子天晟
ワキ  :宝生閑
ワキ連 :高井松男
ワキ連 :大日方寛
アイ  :深田博治
笛   :一噌幸弘
小鼓  :森澤勇司
大鼓  :亀井広忠
太鼓  :吉谷潔
地頭  :香川靖嗣
主後見 :粟谷辰三
(※1月10日 十四世喜多六平太記念能楽堂


今年はじめのお能は、喜多流の「翁」。

「今月の宝生」で「翁」予習したんじゃなかったのか~~?と突っ込まれそうですが、
この選択には私なりの深謀遠慮(?)が・・・。

小ぶりな見所は通路いっぱい消防法ギリギリ(?)まで補助席を出すほどで、文字通り「立錐の余地もない」盛況でした。万一の遅刻を恐れてか、開演5分前にはほぼ全員席に着いてたみたい。
やがて、「おまーく」という声とともに面箱を掲げた千歳、翁、三番叟が橋掛かりに姿を現します。火打石は鳴らしてなかったみたいだったな~。喜多流では千歳をつとめるのは狂言方。去年銕仙会でみた観世流とは これだけでも決まりごとがだいぶ違います。
シテは四十代半ばくらいの方で、見所に向かって額が床につくのではないかと思うほど深々とお辞儀をする姿から「これから私が『翁』をつとめさせていただきます」といった厳粛な緊張感がひしひしと伝わってきます。
「とうとうたらりら~」は、清々しくよく透る声で、喜多流らしく子音の発音のはっきりした聴き取りやすい謡。オペラっぽかった去年の銕之丞の謡とは違って、このシテは祝詞を詠みあげるような謡い方です。銕仙会しか観てないので感覚的な感想だけど、今回は素朴というか、古い時代の匂いを感じさせるような「翁」だったのが面白かった。緊張感も清々しい舞は、閉ざされた屋内能舞台ではなく青空の下、神社の境内で観ているような感じがしました。(後で知ったのですが、このシテは京都で活動されてる方だそうです。クラシカルな雰囲気はそのせい?)
萬斎の三番叟、こちらはもう何十回も三番叟をつとめている余裕が感じられて、三番叟が出たとたん神社の境内から世田谷パブリックシアターに瞬間移動したかと思うほど舞台の空気がガラッと変わったのは、面白いといえば面白かったかも。前衛ダンスを見ているかと思うような足拍子でした。


「羽衣」
ワキが登場する前に、若い後見が長絹を持って登場。あれ、松の作り物は??と思って見ていると、橋掛かりの欄干(一の松の前)に長絹を掛けて「松の枝に掛けた羽衣」に見立てているようです。しかも長絹の色が「井筒」より濃い紫。「羽衣」というと、二年前に拝見した故・佐野萌さんの白い長絹姿の印象が強いこともあって、これにはちょっとびっくりです。紫の羽衣ってよく使われるのでしょうか?
喜多の天女は天冠にピンクの牡丹の花を戴き、面も口元がキュンと上がった小面(たぶん)で、かわいらしい女の子といった趣き。欣哉さんの白龍も人のいい漁師のオジサンで(笑)、いい味出してました。
天女の昇天は、三保の松原、浮島が雲の、愛鷹山や、富士の高嶺、かすかになりて~」で、地謡のトーンがだんだん上がってきて、シテが橋掛かりにゆっくり移動していくのを、ワキがシテ柱を挟んで見送る・・・と、ただそれだけなのですが、平面移動しかないはずの能舞台で、「三保の松原」から「天つ御空」への垂直移動を、謡と橋掛かりで違和感なく自然に感じさせてしまう空間処理に感心してしまいます。


「草紙洗」
・・・・・・。
わずか4分間の完結した世界。静かな充足感。
感覚的な印象しか書けないのがもどかしいけど、磨きぬかれた象牙を思わせる謡と仕舞でした。
今年こそ絶対絶対、昭世のシテを観るぞーー!


船弁慶
<知盛クルーズ>のはじまりはじまり~♪

こないだの天狗さんも地謡に名前を連ねていて、それもちょっと楽しみだったのですが・・・切戸口から一瞬端正な姿を見せたものの、よりによって後列の一番奥(ガーン)。しかも、こういうときに限って前後左右ぴったり詰めて座るもんだから、やまねこの位置からは耳しか見えな~い!!
気分はもう平家の亡霊な やまねこ。。。耳ムシったりしないけど。

閑さんの弁慶は文句なしにカッコよくて、(望月のときもそうだったけど)名乗りで見得を切るような型がこれ見よがしじゃなくて上品で、「美丈夫」という言葉がぴったりくる方ですね~♡
塩津さんの静は、内に秘めたる情熱を感じさせる気丈な静。彼女なら、吉野山での忠信との連携プレーでピンチを切り抜けたりしながら、ずっと義経についてきたというのも納得です。
ああ、でも「船弁慶」の前場って長いよね~。このキリ番で、今年は喜多を観ようと決めたのに、静の舞でところどころ白目を剥いていた やまねこ・・・。(←これが気分よく眠れるんだなー)
舞い終わって烏帽子の紐をはらり、と解いて涙を流す静の姿を前に、「やっぱりもう一泊したい!」とゴネる義経に、「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」と穏やかに強く言い聞かせる閑弁慶。こういう男女の機微は、名人のシテとワキを得てはじめて説得力がありますね。

お囃子も技量のしっかりした若手揃いで、いかにも「何か出てきそう」な波のうねりを聴かせてくれました。そして昏い波の間から現れた知盛の亡霊は、白地に金の波模様を描いた厚板・明るい紫地に立浪模様の半切姿。袷狩衣を着けないカジュアルスタイル(?)の知盛にびっくり。羽衣の松といい、今日は驚いてばっかりだな~。
でも身軽な分実戦重視なのか(?)、この知盛は義経に本気で殺意を抱いていて、ナギナタを子方の喉元20cmくらい手前まで ぐいっと繰り出すのです!すごいコントロールだ!すかさず数珠をばしっ!と打ちつける弁慶。「船弁慶」とタイトルに謳ってるだけあって、この知盛と弁慶の一騎打ちは稲妻まで見えてきそうなスピードと緊迫感。知盛のナギナタ遣いは粘りがあって、隙あらば義経を殺そうとターゲットから目線を離さないのが執念を感じさせます。
・・・それにしても塩津さんて不思議な人だなあ。橋掛かりから現れた姿はとても小柄なのに、舞台に出たとたんに大きく見えて、観るものを舞台に引き込んでしまう。

そんなわけで、久しぶりの五時間にもおよぶ観能でしたが充実した一日でした。
次は下関でトラフグだ~♪(←?)