東京観世会 八月

能「胡 蝶」
  シテ  勝海 登
  ワキ  大日方 寛   
  アイ  遠藤博義
  笛   一噌隆之
  小鼓  亀井俊一
  大鼓  柿原光博
  太鼓  小寺真佐人
  地頭  観世恭秀
  後見  岡 久広   藤波重彦

 
狂言「千 鳥」
  シテ 山本東次郎
  アド 山本泰太郎  山本則孝
 
能「大江山
  シテ  小早川 修
  ワキ  殿田謙吉   
  ワキツレ 御厨誠吾  野口能弘 野口琢弘 森 常太郎
  アイ    山本泰太郎  山本則孝
  笛    寺井宏明
  小鼓  田邊恭資
  大鼓  佃 良太郎
  太鼓  大川典良  
  地頭  岡 久広
  後見  木月孚行   大松洋一
 
(※8月28日(日) 観世能楽堂
 
 
今日の東京観世会は、震災の影響で3月26日(土)に上演される予定の公演が延期されたもので、8月も終わりなのに「雲雀山」「胡蝶」を観ることに。
紅梅の作り物を目にして、5か月間という時間の経過と、その間に起きたさまざまな事に思いを馳せてしまいました・・・。
それにしても、今日は小早川さんは仏倒れをみせてくれるのかな~~わくわく。
 
「胡蝶」
わりと上演頻度の高い曲らしいですが、観るのは初めて。
春夏秋の花々とは仲良くなれるのに、早春に咲く梅とはご縁がないのが悲しいから結縁して!と僧におねだり(?)する胡蝶の精は、前場で春の花々を散らした紅白段の唐織姿でいかにも若くキレイな女性らしいいでたちなのだけど、いかんせんシテの謡がちと野太い感じ。。。
後場では白地に朱と萌黄の枝垂桜(?)をあしらった長絹姿に金色の胡蝶の冠を着けて登場。袖をひらりと翻す型はやはり蝶々らしいというか。
 
「千鳥」
酒代のツケをため込んだまま、さらに今宵の客人への振る舞い酒を一樽前借りしてこい!という主人に無理難題を言いつけられた東次郎。そんな家計でそもそもお給料ちゃんともらっているのかと気になってしまうけれど、この齢じゃ今さら転職もできないのかもしれない(涙)・・・と想像させられてしまう。
小謡や舞が入る曲は、東次郎の芸が、舞台から粒子のようにきらきらと見所にこぼれて輝くようだ。ちりちりやぁ~ちりちり、など謡の音楽性が高く、酒屋の主人も楽しませてくれるんならタダで酒やってもいいかな~と釣り込まれてしまい、その心の揺らぎを見逃さず、竹馬にまたがったまま酒樽を引っ掴んで逃げちゃう東次郎。やはりタヌキです。でも、ただのタヌキではありません。
 
大江山
今回初めて山本家のアイを観たのだけど、女とすぐ仲良くなっちゃう和泉流と違って、山本家の強力と女のやり取りはビジネスライクというか割とあっさりなのでした。
 
シテは黒頭に、白地に朱と萌黄と浅黄色の唐草をあしらった法被、花を連想させる半切姿。細身で背が高いこともあって、童子というより青年のような端正な雰囲気です。サラサラの黒頭からほの見える、少しうつむき加減の白い横顔、そして、凛とした深みのある謡。6月の「夕顔」も、闇に吸い込まれていくような儚い美しさがあったけど、今日の方がずっと綺麗・・・
 
いかにも鬼退治の首領らしい(笑)、ワキの殿田健吉に尋ねられるままに、大江山に住み着いた顛末を話しだす酒呑童子比叡山を大師に追われて、あちこちの山々を漂流した挙句ようやく大江山にたどり着いたこと、自分がここに隠れ住んでいることは人間には決して知られたくないから他言しないでほしい・・・「鬼」とは、人とは異なる(食)文化を持ち、それゆえに差別され流浪してきた異類の者かもしれない。そう思ったほど、この鬼は孤独の憂いを感じさせるのでした。それでもやはり、人間への警戒心から一瞬「鬼」の鋭さを見せる場面もあり。
頼光の盃を受ける型、舞っているうちに酔いが回って足元がふらつく型など安定した流れがあって、シテの中で酒呑童子がしっかり息づいているのがわかります。
それにしても、今日の酒呑童子は中性的といっても妖艶系ではなく、澄んだ憂いのある鬼で、前場があっというまでした。
 
酒呑童子が酔いつぶれている間に、アイの強力と女のやりとりがあるのですが、山本家は強力も女もちょっとトシいった子連れ再婚カップルです。都にいる夫は若い女と再婚してしまったと聞いた女は、強力のプロポーズにも子供が不憫だからと渋るのですが、「子供はオレが引き取って大事に育てるよ!」という男の言質を取ってOKします。若くて独身同士の和泉流カップルと違って、結婚の条件としてお金や子供の話が出てくるあたり、とっても現実的な山本家なのでした。
 
そうこうしているうちに、酒呑童子の閨の鍵をゲットした頼光。(「くろがねの扉」に施錠して就寝するという用心深さ自体が、酒呑童子が実はそれほど強い神通力を持っていない証拠かも)
討伐勢に取り囲まれて情なしとよ客僧たち偽あらじと云ひつるに。鬼神に横道なきものを」と悲痛な驚きの声を上げるシテ。ここの謡い方たまんない~。なんか「羽衣」の「天には偽りなきものを」と同じ論理ですね。
打ち杖を手に起き上がった鬼神は、やはり若々しい雰囲気のまま、びしっ!と面を切ってワキ一行と激しい格闘を繰り広げる姿がカッコよかったですが、やはり二日酔(?)では力を出し切れず。。。やがて頼光の刀に貫かれ、よろめいたところを背後から袈裟掛けに斬られ…舞台の中央で見事な仏倒れ!!いや~やっぱり酒呑童子の最期はこうでなくちゃ!
何事もなかったようにさっと起き上がり、切戸口を出るときに戸に頭を思いきりぶつけていて、そのまま滑り込むように出られたのですが、頭の前後を続けて打ってだいじょうぶかな~とちょっと心配。。。
ああいう雰囲気の「鬼」もいいな~。後ろのオバサマ方が「酒呑童子きれいだったわね~」なんて言ってて、思わず「でしょ、でしょ?」と振り向きたくなるのをガマンしました(←何者?!)「弱法師」なんかもハマるかも。
 
帰りにクレープもしっかり食べて余韻に浸った やまねこでした☆