With Or Without You

☆U2/With Or Without You
 
いわずとしれたアイルランドのスーパーバンド・U2の最大のヒットナンバーの一曲。
 
学生時代に初めてこの曲を聴いたとき、
歌詞の意味などわからずとも心にダイレクトに訴えかけるものがあって
アルバム「THE JOSHUA TREE」を買ったのを覚えてます。
1987年のリリースだから、もう20年以上前の曲なのに、今聴いても名曲だと思う。
冒頭のブライアン・イーノシンセサイザーが、無限に広がる空間感覚を作りあげ、
ボノのストイックな歌い出しが重なるところなんて、何度繰り返し聴いことか。
 
君の瞳に浮かぶ石のような冷たさ
君をがんじがらめにする不安のたね
僕は君を待っている
手先の早業 運命のいたずら
針のむしろの上であの娘は僕を待たせる
そして僕は待っている 君なしで
 
君が一緒でも 君がいなくても
君が一緒でも 君がいなくても
 
嵐を切り抜けて僕らは岸辺に辿り着く
君はすべてをさらけ出すけど それじゃ僕はもの足りない
そして僕は待っている
 
君が一緒でも 君がいなくても
君が一緒でも 君がいなくても
僕は生きていけない
君が一緒でも 君がいなくても
                     (以下略)
 
 
最初に和訳を読んだときは、思うに任せない恋の苦しみを歌った曲かと思ったけど
大学の英語の授業で、日本語では「情熱」と訳されることの多いpassionが英語圏ではキリスト教のパッシォン(受難)を意味すると知って、この曲の冒頭、
See the stone set in your eyes (君の目には石がはめられ)
See the thorn twist in your side (君の身体には棘が巻かれ)
という直訳からキリストの磔刑を連想したのでした。
う~ん、恋の苦しみ(情熱)とパッシォン(受難)が重層的に歌われているのか?
YouTubeの動画でも、ボノが両手をくくられるようなポーズをとっているけど、
あれはまさに磔刑の姿そのもの。
(そもそもアルバムのタイトル、JOSHUAも旧約聖書の登場人物らしい)
 
そういえばU2を生んだアイルランドカトリック信者が多く、プロテスタントのイギリスとは血で血を洗うような宗教紛争が頻繁に起きていますね。
ネットでは「僕」(アイルランドカトリックの男性)と、「君」(プロテスタントの女性)の
許されぬ恋を描いているのでは・・・という解釈が出ていたけど、
やまねこは もっと根源的な、愛し合っていても完全にひとつにはなれない苦しみと
宗教上の葛藤というダブルメッセージを持った曲ではないかとらえています。
和訳だけ読んでいると気づかないけど、原詩を読むとIとYouが入れ替わり、
僕にすべてを投げ出す「君」と、君がいてもいなくても生きていけない「僕」が
まるで同一人物、二人で一つのように見えてくる。(←やまねこの英語力の問題か)
心が通じ合っているみたいだけど決して一緒になれない恋人同士、というよりは
キリストと一信者の関係とみた方が、人称代名詞の矛盾がすんなり読めるかも。
 
 
・・・というわけで、外国語を勉強するときは語学だけではなく、その背景にある文化への理解も不可欠だということを実感させられた曲でもありました。
最近、「日本人社員の9割は英語はいらない」というようなタイトルのビジネス本を書店で見かけたけど、実務に限定して断言する発想自体が視野狭窄かもね。
特に今のご時勢、母国語以外の言語に一か国語でもふれることは、理屈抜きで異文化理解、ひいては自国を別の視点で観られる糸口になるのではと思います。
(あれれ、マジメなオチになっちゃった。。)